ご無沙汰しております……と公演ごとにご挨拶している気がいたします。オリンピック見てますか? 第2劇場です。
前作「かなこるむ。」で、関西演劇界(の一部)に旋風を巻き起こした四夜原茂、約2年ぶりの新作です。
引っ越しを済ませたばかりと思われる男の日常。
しかし男には、というより男の周辺には不可思議な出来事ばかり。
入れ替わり立ち替わり現れる妻と思しき女たち。
友達のようにふるまう見知らぬ男たち。
この人たち誰ですか?
え? 忘れてるのは私なんですか?
この箱の中身は私のものなんですか?
物忘れとかしますよね? 思い出せないままのことありますよね?
人生後半戦に入った四夜原茂が実感とともに、過去と忘却をキーワードにお贈りします。箱の中身はなんじゃろな、手探りしてみて大丈夫? 出てきたものが、あなたですよ。
客演さんによる着地不明トーク
久々に客演の方に来ていただくことになりました。2劇の団員でもある川上立が率いるスプートニクより、巽由美子さんの登場です。その実力は存じ上げているものの、その人となりはよく知りません。正面から聞いてみますよ。
― まずは自己紹介からお願いします。
巽 巽由美子です。厄年です。まだ厄払いしてないのが不安だったんですが、知り合いに「役者が役を払ったらダメだろ」って言われて安心しました。役者でよかったです。スプートニク所属です。
― 所属をちゃんと言うんですね。
巽 言わないと川上君に怒られるんで。
― どうしてスプートニクに入られたんですか?
巽 ずっとスプートニクにかかわってるのに立場はフリーっていうのが、そろそろ面倒になった頃に川上君に「もういいだろ」って言われて。十年かけた事実婚みたいなものですね。
― 客演にお誘いしたウチの主宰、阿部の印象を伺います。
巽 初めてきちんとお話したのが、川上君の当時の自宅兼2劇事務所の掃除の時だったんですよ。赤いチェックのスリッパを用意してくれたダンディなおじさま、というのが第一印象でした。
― あ、演劇人としての印象ではなく。
巽 まあ、川上君がなついてるから信頼できるんだろうと。
― 川上を信頼してるんですね。
巽 してます、と書いておいてください(笑)。
― 客演は緊張します?
巽 予想してたより緊張してます。知ってる人が多いからそうでもないかな、と思ってたんですが。自分探しの旅の途中ですね。
― (自分探しの旅?)
巽 客演は楽し……頑張ろうって思います!
― (出発地点と違うところに着地した?)最後にこの公演への意気込みを。
巽 …私についてこい! 私にだまされるなよ、怪我するぜ?
― ……前半と後半が微妙に矛盾してませんか。
巽 多分そんな感じだと思うんです。好きな方でお願いします!
― だそうですので、お読みの皆様のお好みでひとつ。
四夜原 茂による愚痴吐露トーク
もちろんあります作者インタビュー。作品について、ぐいぐい聞きますよ!というつもりだったんです、最初は。でも、なにしろ付き合いも長いし、 例によって場所は居酒屋だし、気が付いたら半分くらい日頃の愚痴になってても、
しょうがないですよね? ね?
記憶は確かだったっけ。
― 老化でも記憶が失われますが、病気でもそうなることがあるそうです。
四 最近うつの人が多くて、その症状の一つとしても記憶障害があります。
― 記憶を失って、かつ失ったことも忘れてしまってたり。
四 ところが過去になかったことにしたいことがある人も、記憶がないフリをすることもある。で、その二つは簡単に見分けがつかない。
― おお。今回の主人公は記憶を失っているわけですが、それは昔をなかったことにしたいだけなのか、本当に記憶を失っているのか。
四 周りの人には判断がつかない。
― でも記憶がなくなった人は不安だし、不便ですよね。
四 だから取り戻そうとするわけだけど、これもあやふやな話でね。自分の持ち物から想像しようとしても、見方によっていろんな風に見える。
― たとえばピストルを持っていても、犯罪者だったのか警官だったのか。
四 日記を見ると「ロケットに乗って○○に行った」と書かれている。
― ロケットで? しかもなぜ○○に?
四 さあ、全くわかんないぞ、となりますね。
― 主人公に待ち構える過去とは如何に。
四 記憶をなくすとは、人間の幸せとは。
― 乞うご期待です。それはそうと今回はストーリーがやけにちゃんとしてませ
んか。
四 ストーリーありますよ。飛び飛びだけど。
― え。
ドキュメンタリーだったっけ。
― その他、見どころの解説などを。
四 役者のプライベートについて、芝居の中でいろいろ本当のことを言います。ええ本当に言っていいの?ってことまで。
― どこが真実なのかは内緒です。というか内緒にしてあげてください。
四 ニューヨーク帰りのダンサーとかね。
― とりあえず踊ってもらいますか。
終わりにしてもよかったっけ。
― お客様にこれだけはどうしても、という一言を。
四 遅刻は困ります。
― ええと、詳しくは申し上げられませんが、最初に重要な展開があります。
四 最初を見逃すと、後が全く分かりません。
― 時間をご確認の上、劇場においでください。
新人達による五里霧中トーク
今年も新人達が入りました。フレッシュな空気を劇団にもたらしてくれることを期待したいものです。しかしこれまでの彼ら彼女らを眺めるに、どうも集団で建設的な会話をするのが苦手な様子。どんな話題でもそうなのか、ランダムな
テーマでフリートークしてもらうことにしました。登場するのは 宮前旅宇、津田ひとみ、柴田惇朗、小川ぴゅあの四人です。
テーマ「おしゃれ泥棒」
柴 「おしゃれ泥棒」って言葉はないよね。
津 オードリー・ヘップバーン。
柴 あるの?
津 映画がある。
宮 最近ツイッター始めたんやけど、映画関係のアカウントフォローしたらヒッチコックの情報しか入ってこないの。
小 ……それはそういうアカウントだったんだろう。
宮 そこでそのタイトルがあった、確か。
柴 へえ…ここで言って大丈夫? 間違ってるとすっげえ恥ずかしいよ。
宮 泥棒ナントカって映画はあった。「泥棒金庫」みたいな。
津 (笑)
― (「泥棒成金」のことかな。なお「おしゃれ泥棒」の監督はウィリアム・ワイラーです)←脇で聞いている編集長の心の声。以下同様。
小 「おしゃれ番長」って結局なんだったの。
柴 オレンジレンジでしょ。CMの。
宮 ああ、あれ。
小・柴 (歌う)♪おしゃれ番長~
宮 (小声で)違った…。
― (違ったの? なんだったの?)
テーマ「残念無念」
宮 そもそも残念と無念の違いって、なに?
小 残ってるか無いかだよ。
津 (笑)
柴 (笑)念がね。
宮 念が残ってる方がいいの?
小 悪い意味で残ってるのと悪い意味で無いのだよ。
柴 (気づいて)あ、無念は自分のことで。
津 残念は他人のことか。
宮 他人の念が無くなったかどうかまではわかんないよ。
柴 残り少ないのくらいはわかる。
小 「あいつもう念はなくなった!」って。
津 (笑)
テーマ「初心忘るべからず」
宮 好きな言葉。高校時代にノートの最初に書いてた。どんどんいろんなことを知っていくと、天狗になる時があって。
柴 自分は何でもできるって。
宮 その瞬間に終わるから、すべてを抱擁するほど大事な言葉だと思う。
小 抱擁する。
柴 抱きかかえる。
津 (笑)
宮 いつもじゃなくて、ふとした時に思い出すのが大切な気がする。
柴 だからノートに書いて。
宮 月一ぐらいで見返して。
柴 結構忘れてる。
津 (笑)
宮 大人になるにつれていろんなことを忘れていくと思うんだよ。
柴 たとえば?
宮 わかんない。俺、子供だから。
柴 勘なんだ。
津 (笑)
小 「忘るべからず」って格好いいよね。「忘る」も「べからず」も格好いい。
宮 「初心を忘れないでね」とかだったら絶対好きな言葉じゃない。
津 (笑)
柴 あーなるほど確かに。
小 そりゃそうだ。
柴 つまり言葉遣いって大事だってことだよ。
津 (笑)
宮 (小声で)違うんだよ…。
― (確かにいろいろ違ってましたね、うん)
タケ編集長・冨田の数年に一度の編集後記
大事なのは若いうちにあきらめてしまうのをおぼえないことです。年をとると気付かぬうちにあきらめてしまっているので。今回はなんとか投げ出さずに完成させました。タケ編集長・冨田です。
うっかり忘れの多い人なら共感していただけると思うのですが、忘れたのを責められるのってなんだか不条理感があるんですよね。憶えてたのなら忘れたりしないよ!って言いたい気持ちがどうしてもあったりしまして。
もちろん忘れるのがいけないんですよ? 忘れないように、メモなりなんなりしておけよ!ってのは間違いなく正論です。でもね、メモってなくすし、なんについてのメモだったかわかんなくなるし、そもそもメモすること自体忘れてし
まってたりするし。ダメですよ? 悪いんですよ? でも大した用じゃないし、仕方ないこともあるじゃないですか、ねえ。
ところで先週、後輩にある頼みごとをしたんですが、その返事がまだ来ていません。きっと「大した用じゃないから」とか勝手に判断して忘れてるんです。決して許しません。編集長・冨田 明裕、イラスト・岸本 愉香でお贈りしました。それでは劇場でお会いいたしましょう。
『萱場ロケッツ!』公演情報はこちら!
チケットのご予約はこちらです。
【萱場ロケッツ!の最新記事】