今回、㐧2劇場にとって久々となる本公演。新年早々上演に向け動き出す劇団員たち。しかし一体どんな物語になるのか、まだ我々の誰にも知る由はない。完全新作『AIとまこと-完全版-』について、新年最初の稽古を終えた後、作・音間哲、演出・阿部茂に話を聞いた。場所はもちろん行きつけの居酒屋「かさ家」。いつもと全く変わらない新年の幕開けである。(インタビュー:大川諒平)
音間 あるところに売れない劇団がありまして、売れないのにはとある理由がありました。その劇団は、よそがみんな使っている台本生成プログラムを使っていなかったんです。新公演を企画するけど、あちこちが破綻して大変なことになってしまう。そんな、AIに頼れない時代遅れな座長と、なぜか彼の傍にいることになったAIの物語。という感じかな。
大川 AIの出てくる話っていう構想が出てきたきっかけみたいなのって何かあるんですか?
音間 将棋の電王戦(コンピューターソフトとプロ棋士による対戦)ってやつで人間側の負けが確定したって時代に、それに関するドキュメンタリーの本を読んだのよ。それで、負けた側の棋士の立場になってみたいなと思って。俺に置き換えるとどうなるのかなって考えたら、AIが書いた芝居が俺より面白いってシチュエーションに行き着いたと。
阿部 その話はね、どうも2014年くらいに既に一度してたみたいなんだよな。
音間 俺も昔のファイルとか漁ってたら、丁度その年に内容をメモしたものが出てきて、その時点でほぼ内容も決まってたから、俺そんな前からこの話考えてたんだ、と思って。AIによる台本生成プログラムみたいなのが出てくるんだけど、一応設定としては、プログラムではなくプログラムの使用権的なものが金で買えるみたいな仕組みで、プログラムに台本を一本作ってもらうごとに幾ら、みたいな。で、ソフトの種類とか盛り込んでほしい要素とか、完成度の指定とかで金額が変わってくると。もちろん高ければ高いほど、より芝居の質に関して保証されるっていうね。
大川 物語のカギになるポイントは何でしょう。
音間 人間でもなく、ロボットでもない、実体を持たないAIっていうキャラクターが人間の形をして出てくる、っていうのは一つあるかな。
大川 なぜ人間の形をしてるんですか? 彼女は。
音間 多分いろんな形になれると思うんだよね。たとえば、もっとロボット然としたような姿にもなろうと思えばなれる。ただ、そういう技術的な話に全く興味のない座長が適当に選んだ女の子の姿をしてるだけ、なんだと思う。
大川 今回、キャストを決めるにあたって劇団内で珍しくオーディションを行いましたけど、どうしてオーディションをやろうって事になったんですか?
阿部 まぁ別に当て書きにしてもよかったんだけど、最近、劇団員の数が増えたじゃないですか。折角だから、せめぎあいみたいな事がやってみたかったんだよ。
音間 多分、そもそもオーディションができるチャンスがそうそう無いだろうから、今のうちにやっておきたかったなっていうのが一番だな。
阿部 やってる側としては、みんなを一人ずつ外に呼び出して尋問するの、あれが一番楽しかった。
音間 最悪だ。
大川 実際にオーディションをやってみた感想は。
音間 うちは大体が当て書きだから、そういう意味では「こんな役がしたい」みたいな選択肢が無いのよ。っていう声が上がってくることもあまり無いし。そういう意味で言うと、役者それぞれの欲求みたいなのがちょっとだけでも垣間見えたのは面白かったな。
大川 演出の阿部さんから見て、今回はどんな芝居になると思いますか?
阿部 これはねぇ、本当にドロドロな芝居になりますよ。久し振りのドロドロじゃないですかね。
大川 と言いますと。
音間 あのね、特にうちを観慣れてる中でそう感じるお客さんが一定数出てくるんじゃないかとは俺も思うんだけど、これは最初にはっきりと言っておくから。ニゲキの実情を映しながら書いてると思ってる箇所は全くないから!
阿部 という風に作者は言ってるんだけど、多くの人がこれはドキュメンタリーなんじゃないかと思うんだよ絶対。
音間 そういう意味で、劇中の座長がニゲキの座長と被ってるところってほとんど無いと俺は思うんだけど、でもそうじゃないと感じる人は多いんだろうなとは思う。ただ、何度でも言います。今回の脚本と、㐧2劇場の内情とは何の関係もございません!
阿部 よくテレビのテロップで出てくるやつだね。「このドラマはフィクションです」ってやつ。
音間 まぁスタッフの関係性とかはそうなってしまうかもだけど。俺が望むと望まざるとに関わらず。
阿部 芝居を作るっていう芝居をしながら、そこにAIが介入してごちゃごちゃしていくから、基本三重構造ですね。芝居の中に劇団があって、その中でまた芝居をする訳だから。あとは、軸になるのはやっぱりメインになる座長とAIとのラブストーリーなんだろうけど、でも機械ですらない情報の塊と生身の人間との恋愛ってどう受け取られるんだろうっていう。
音間 ある種プラトニックではあるよね。
阿部 その辺をできたら暖かく見守ってほしいね、お客さんには。
音間 機械に感情が芽生えるのかどうかっていう問題はよく議論されるんだけど、これに関して哲学的には既に答えが出てて、「感情があるように見えるものに対しては、感情があるという前提で接するのが正しい」と言われてるんだよね。実際に感情があるかどうかは問題じゃなくて、あるように感じるかどうかが問題な訳で。それが感情のような何かであったとしても、見極めがつかないんであればそれは感情であると言っていいのではないかと。と言いつつ、それでも人間は考えちゃう訳じゃないですか。この感情は本物なのかどうかって。でも、実は人間相手でもそんなに変わんないんじゃないかとも思ったりしてね。
阿部 何なら機械とか情報とかの方がまだ正直なのかもしれないね。人間ほどアテにならないものは無い。
音間 データとしてモニタリングできる分、ある種そっちの方が信用できるのかもしれない。むしろ人間相手の方がよっぽど危ういのかも。
大川 晴れて配役も決まった訳ですが、役者陣に関してコメントとかあったりします?
音間 というか、逆に大川が今どういう想いで役に挑もうとしているのかみたいなのは聞きたいな。
大川 私ですか?
音間 一人だけオーディションじゃなかった、ってのも含めて。
音間 話のストーリーを考えている時に、このキャラクターを大川が演じたらどうなるだろう、って思い至ったところでグッとシナリオが動き始めたっていうのは事実だから、確かにある意味全体の中でも特別な役ではあるな。予め各キャラクターに色を付けすぎると、それはそれで当て書きっぽくなってオーディションにはよろしくないと思ったから、それぞれあんまり強烈な個性はまだ付けないようにしてたの。と思ったんだけど、大川とあのキャラクターをリンクさせた瞬間にある程度出来上がっちゃったみたいな部分はあるから、もうこれはしょうがないと思って。配役決まったから、これからは他の役も当て書きになっていくだろうけどね。
大川 とりあえず私の心境としては、今まで出たニゲキの公演の中では一番気合い入ってると思います。そもそも舞台立つの自体久しぶりですし。
音間 他のオーディションで決まった配役についての印象はどうなの?
大川 印象というか、今回全員舞台上で喋るの初めてなんですよ。座組は一緒でも絡むシーンは一度もなかったりとか、仮にあっても舞台じゃなくて映画だったりとかで。新人の子のほとんどは一緒に芝居やるのすら初めてですし。だから印象というよりも、その前にすごく新鮮だし、楽しみですね。
音間 全然そんなこと想像しなかったけど言われてみればそうだ。確かに、昔からいる劇団員と新しい劇団員とが舞台上で絡むってのは割とみんな初めての経験なのかもしれない。っていう意味ではニゲキの新しい姿を見せられるかもね。本公演も久々だし。なんかちょっと、劇団全体に気合いが入っている気はするよ。
(舞監) ……ほんと?
音間 因みに、もし実際に台本生成プログラムみたいなのが世の中に出てきたとしたら、阿部さん利用する?
阿部 もちろん利用する。
音間 俺はもしこのシステムが実在したら自分はどうするだろうっていうのが一つこの芝居を書いていく中でポイントになってて。今のところまだ自分としての答えみたいなのは出てないんだけどね。
阿部 俺は大体答え出てるよ。まずAIに書かせて、俺が書いたフリして出来たよ~ってみんなに見せる。
音間 それはね、法律違反になります。あの世界では。
大川 普通に似たような事して騒ぎになった人現実にもいたでしょ。
大川 もう話す事もなくなってきたので、最後にこれを読んでくださっている皆様へ一言。
音間 え~、全力で面白くしますので、観に来てください。……たまには真面目なこと言わないとね。
阿部 もうこれで、AIに負けて芝居辞めるかもしれません。
大川 ……ありがとうございました。