私はビデオカメラ、結構最新型の、何かと便利なやつである。最近の主な仕事は、岸本愉香の稽古記録である。
『個展』稽古に私は欠かせない。突っ走る岸本の演技は誰にも止められない。ヒトはそれを冷静に分析することができず、また、ホンニンも演じている間に何が起きているか分からない。そこで、私は稽古に協力する。メモリーに記録する。稽古場に、または稽古場の外にも、事態を報告する。
私が最も冷静な、稽古の観察者である訳だ。光栄だ。一人の素敵な女優の成長を見守り続けること。
しかし、ここ最近、私は悔しくてたまらない。
通し稽古を記録していて、気がついた。どうも、私以外の稽古場のヒトや演じるホンニンは、私のメモリーに入らない「何か」を愉しんでいる。その「何か」の温度はどんどん高まっているようだ。21世紀懐徳堂スタジオで提供されようとしているのは、もしや……。
私は記録しかできない。記憶はできない。『岸本愉香 個展』に来場されるお客様は、この女優をとくと観、記憶されたし。
私は悔しい。
スタッフ戦隊にも名を連ねられない端くれのビデオカメラだが、私には分からない「何か」が存在していることは保障する。躍っていたら、なお良し。
昭和アフロ原田には、そんな声が聞こえました。